研究者を目指すという熱病

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法学部への編入試験と法学科目対策のために私が実際に使用した教科書・参考書について

 この記事では、私が編入試験の受験生だった当時、実際に使用した法学の教科書および参考書を紹介したいと思います。この記事は、とりわけ、法学部への編入試験を受験することを考えているけれども、どのような法律書を読めばよいのか迷っている方の参考となれば幸いです。この記事は2020年10月に大幅に加筆・修正したものです。

①「法学入門」・いわゆる「法学概論」のための法律書

  道垣内弘人『プレップ 法学を学ぶ前に〔初版〕』(弘文堂、2010年)

 本書は、私が実際に通学していた編入予備校において最初に指定された教科書でした。本書の現在の最新版は2017年に出版された第二版となっております。

 本書は、一言で言えば、条文の読み方から始まり、法解釈と法適用の初歩的な作法を丁寧に教えてくれる一冊です。法学を初めて学ぶ方に最もお薦めできる一冊です。

 私の手元にある初版でいうと、本書の42頁以下の説明を読むだけでも、法解釈というのが、どのようにして行われるかのエッセンスをわからせてくれます。

  次の出来事は私が大学院生になってから経験したことなのですが、まだ修士の院生だった頃に、私が院生として所属する法学部に留学生として来日した留学生のチューターを務めたことがありました。その留学生はまだ学部1回生であり、法律学の初学者でした。その留学生は、条文の文言解釈が、とりわけ民法における法の文言への解釈がどのように行われるのかうまくイメージが掴めないと私に訴えました。

 その際に、私は、留学生に、本書の道垣内先生による42頁以下の叙述に依拠した説明を加えた上で、この説明をその留学生にしっかりと理解してもらった後に、彼がその週の学部の講義で習ったという民法の具体的事例における文言解釈についての解説を行ったところ、彼は法解釈のイメージをざっくりと掴めたと言ってくれました。

 やや抽象的な話ばかりでこの記事をお読みになっている方に本書の価値を伝えきれていないかもしれませんが、私自身も本書を読み通した上で、民法憲法、刑法の勉強を進め、編入試験に合格することができました。「法学を学ぶ前に」という題名がつけられていますが、私は院生になった現在でも、大事に手元においている一冊です。

末川博編『法学入門〔第六版〕』(有斐閣、2009年)

  私が、通っていた編入予備校で指定された教科書でした。

    2010年代前半に私が予備校に通っていた当時、自身も大阪大学編入された講師の先生(現在、弁護士)は、とりわけ神戸大学関西学院大学などの編入試験を受験するのであれば、本書の内容の知識が最低限、要求されると述べ、受験生にとっては必読文献であると位置づけていました。

 また、紙媒体やネット媒体上で閲覧することのできる編入経験者の合格体験記を読む限り、本書を受験のために使用した受験生はかなり多いので、事実上、本書の知識を学習していることが受験生のスタンダードになっているのではないかと思います。少なくとも私が確実に断言できる限りでは、私が通っていた予備校の系列校では当時から、本書が受験参考書として用いられていました。おそらく現在では、より多くの編入予備校において受験参考書として、紹介ないし使用されているのではないかと思います。

 このように本書が編入試験の受験生にとってのある種のスタンダードとしての地位を占めている限りでは、編入試験が他の受験者との相対試験である以上、一読くらいはしておく必要のある本だと思います。もう少しいえば、本書に書かれていることを、キチンと自分の頭の中で確認、整理した上で、他の受験生と差をつけるために、より専門的・発展的な法律書にも目を通して、その知識を洗練させる必要があると思います。

 また、上記の『法学入門』の類書として、伊藤正巳・加藤一郎編『現代法学入門』(有斐閣、2009年)が存在します。本書もまた、予備校においていわゆる参考書として紹介された文献でした。ただ、私が通っていた予備校では、『法学入門』か『現代法学入門』のどちらか一冊を読めば、編入試験におけるいわゆる「法学入門」または「法学概論」科目の対策としてはそれで足りると説明されたので、深く何度も目を通すことはしませんでした。ページを捲って、本に風を通した程度です。

 

大谷實編『エッセンシャル法学〔第5版〕』(成分堂、2010年)

 本書は、同志社大学出身の刑事法学者の先生方が共同で、執筆された講義用のテキストであると「はしがき」に書かれている一冊です。本書もまた、編入予備校の参考書として受験半年前に購入させられたものです。

 本書は、憲法民法・商法・刑法・手続法・労働法・社会法・医事法・情報法・国際法などの様々な個別の法領域を、一冊でカバーすることを試みた法律書です。

 本書全体の特筆すべき特徴として挙げることができるのは、いわゆる入門的な法律書の中でも、とりわけ判例が丁寧に引用されている点だと思います。

 また本書の特徴的な構成は、憲法だけで、本全体の3分1にあたる100頁程度があてられている点です。本書の巻末に、憲法の条文が記載されていることからも、本書が、様々な法領域に目を配りつつ、特に憲法(学)の説明に力を注いでいる一冊であることがわかります。

 このように判例を丁寧に引用するという方針は、まだ判例百選などに目を通すことができていない人にとって助かるものだと思います。

 ただ、私自身の本書についての率直な感想を述べると、後述するように高橋和之立憲主義日本国憲法〔第2版〕』(有斐閣,2010年)という基本書を憲法の勉強のためにすでに読み終えていたので、高橋先生の基本書を読んでいた私にとっては、本書の憲法の説明はやや物足りなかったと感じます。

 さらに、憲法の叙述の豊富さと比較すると、民法の財産法に関しては僅かなページしか割り当てられていないことも、編入試験というやや特殊・例外的なニッチな関心からは、本書はやや不満足な構成であるといえます。

 しかし、反対に言えば、現時点の段階でまだ薄めの憲法学の入門書をようやく読み終えたという段階の方や、これから憲法を勉強しようとする編入受験生、様々な法領域を横断的に学習することに関心のある編入受験生にとっては、非常に価値のある一冊となるかもしれません。なお現在の最新版は、第7版となっております。

 

憲法)

高橋和之立憲主義日本国憲法〔第2版〕』(有斐閣,2010年)

 編入予備校における「憲法」の授業の指定教科書でした。

   講師の先生による手解きがなければ、おそらく読み進めることのできなかった1冊です。書評から完全に外れてしまいますが、まだ私が法学部にさえ入学していなかった時代に、本書と格闘し、テキストに書かれていることを必死に理解しようとした経験が、いまの大学院での研究に活きています。

 初学者が独学で読み進めるのはめちゃくちゃしんどいと思いますが、ぜひ、手にとってみてください。ちなみに私は編入後の学部3回生時に、憲法ゼミに入りました。

芦部信喜憲法〔第五版〕』(有斐閣,2011年)

 司法試験・予備試験受験生だけでなく、編入受験生の間でも岩波書店の芦部憲法は定番のテキストのようです。また、芦部先生がお亡くなりになられた後は、上で紹介した高橋和之先生が改訂作業を行っています。この改訂作業においては、芦部先生によって書かれた原文には一切、手を加えないという方針のもとで、芦部先生ご逝去後の判例の補訂(追加)のみが行われております。

 それゆえ、近時の学説の議論をもカバーした憲法の基本書を手に取ってみたいという方には、私自身の思い入れ補正が多分に含まれますが、高橋和之先生の『立憲主義日本国憲法』を推したいです。

 もっとも、既に述べたとおり、上記の改訂方針のもとで、芦部先生が行われた叙述には手が加えられていないので、最新版でも旧版でも、芦部先生による原テキストはそのまま維持されており、旧版でも十分に芦部憲法の体系、真髄にふれることができます。

 さて、最後に、本書は法学部生にも広く読まれている教科書ですが、本書の内容を理解するのは非常に難しいと一般に言われています。それをぜひがんばって乗り越えてください。

大石眞・石川健治編『憲法の争点〔新・法律学の争点シリーズ〕』(有斐閣,2008年)

 編入試験の過去問において出題されている問題(争点)であるにもかかわらず、 上で紹介した高橋和之先生の憲法の基本書においては、数行でのみで簡単に説明されているだけという出来事がありました。

 その際に、自分の知識を補足、補完するために参照したのが、編入予備校の図書室に所蔵されていた『憲法の争点』でした。憲法上、問題となっている様々な争点(論点)について、大体2ページから4ページほどで、解説が行われています。

 本書はまた、憲法上の各々の争点について論じる文献について、詳細な参考文献を記載しているので、非常に有益です。憲法について何か調べものができた際に、手元の教科書では十分な説明を行ってくれていない場合には、大体、本書を手に取ると解決することが多かったです。初めて行った旅行先で助けられる交通案内所のような一冊です。

長谷部恭男『憲法と平和を問い直す』(ちくま新書、2004年)

 ぜひこちらの記事を参照してください。

hougaku-0106.hatenablog.com

 

民事法)

 野村豊弘『民事法入門〔第五版〕』(有斐閣,2007年)

 実体法としての民法と、権利の実現のための手続法としての民事手続法を初学者のために概説した入門テキストです。

  法学を勉強し始めた頃の私は、民法がむちゃくちゃ苦手であり、編入予備校の授業でさえあまり理解できていませんでした。「財産法」と「家族法」が本当に簡潔に説明されています。ちなみに最新版である第8版は、民法改正に対応。

 

近江幸治『民法講義〈0〉ゼロからの民法入門―教養としての民法』(成文堂、2012年)

 編入試験直前期になっても民法が全然分からないと予備校の先生に相談した際に、その先生からお薦めしてもらったのが本書です。

 本書は、とにかくレイアウトが素晴らしく、条文が適用されるために必要な要件が視覚的に理解しやすい工夫がなされています。問題となっている事案状況を説明する図も豊富であり、私自身は、日本において屈指の死ぬほどわかりやすい民法の入門書だと思っています。民法改正前は、民法を概観するために債権法、物権・担保物権法、家族法を初めて勉強するのに最もお薦めできる本でした。

 このような自分自身にピッタリとハマる本をみなさんも探してみてください。

 

刑法)

井田良『基礎から学ぶ刑事法〔第4版〕』(有斐閣、2010年)

 有斐閣アルマシリーズの1冊です。

 文字通り、私が刑事法を勉強する際に手に取った最初の1冊であり、編入予備校における刑事法入門の授業において、教科書指定された本でした。現在の最新版は、第六版です。 

 

法哲学)

長谷川晃・角田猛之編『ブリッジブック 法哲学』(信山社、2004年)

 高校生がスムーズに大学生になるために高校教育と大学の専門課程の間にあるギャップを埋め、架橋(ブリッジ)するように編集された入門書シリーズの法哲学の1冊です。入門書といえば、文章が簡素で味気なく平坦で無味乾燥であると感じる本も少なくないが、本書は読んでいてむちゃくちゃ面白かったです。また、法解釈の方法について述べた前掲・道垣内の41頁から43頁を読み終えてから、ぜ本書の第4講義「法はどのように解釈・適用されているか」をぜひ読んでいただきたいと思います。

 法学概論や基礎法学についての知識が過去問で問われることが少なくない編入試験対策としてはマストな1冊であると思います。

 

おわりに

 使用教材をまとめてみると、特に民法をまったく勉強していなかったと思います。

 とりわけ、編入受験時に、契約法や不法行為法を取り扱う債権法領域でさえ、キチンとした基本書を読み進めていなかったことは、良くも悪くも注目に値すると思います。私の記事を確認したことにより、「これだけの教材でも編入試験に合格できるんだ。」と思わずに、私を反面教師にして、どうぞ研鑽を積んでいただければと思います。

 また少し話題を変えたいのですが、初学者のみなさまは、まず、法律の入門書を手にとられることになると思います。そして、そのようにして意気揚々と持ち帰った法律書を家でいざ読み進めると、思うようにその内容を理解できない経験、ある種の躓き(つまずき)に遭遇すると思います。

 しかし、このような躓きの一部は、ページ数の少ない入門書ゆえの淡白かつ簡潔な記述が原因となっている場合が考えられえます。つまり、あまりに簡潔な記述ゆえに、研究者や実務家にとってはそうでなくとも、初学者にとってはその文章の意味と文脈を掴めないという場合が考えられるということです。

 そうした場合には、勇気を振り絞って、(入門書でさえ挫折しそうな自分には、とても読めなさそうだと思ってしまうくらい)詳くて分厚い法律書をぜひ手にとってみてください。なぜなら、後者の法律書には、入門書を読んでいる際に皆様が躓いてしまった争点に関して、遥かに詳細かつ丁寧にその論理を説明している記述が存在する可能性が高いからです。その記述にあたれば、皆様の疑問が一気に解消されることも少なくありません(実際、私もそうした経験を何度も何度も繰り返しています)。

 例えば、あなたがまだ子どもだった頃に、やり始めたばかりのゲームの簡素な説明書を頭に浮かべて欲しいです。このゲームの簡素な説明書だけではゲームのシステムがよく理解できない、あるいはゲームを思うようにクリアできない場合には、より分厚く、詳細な解説が記載されている攻略本が欲しくなりませんか?

 これと同じような場面に、さらに例えば、スマートフォンやパソコンの説明書で遭遇したことはないでしょうか。簡潔な説明書ではなく、Web上で配布されている詳細版の説明書を読んで初めて、スマフォやパソコンの不具合を解消できたことがあるのではないでしょうか。

 実は、これと同じことが法学にもあてはまると私は考えています。

 もし法律学の入門書を読んでいる最中にその意味をうまく理解できない文章と出会った場合には、少しぶ厚めの法律書をぜひ手にとってみてください。最寄りの図書館でかまいません。きっと、よく分からないと思っていた問題を乗り越えることができるはずです。

 しかしまた、どうしても理解できない問題に遭遇してしまった場合には、分からなくてもどんどん読み進めていくのが法律学習の肝だと思います。分からないことだらけでも、突然、知識と知識が有意味的に繋がり、その疑問が一気に解消される日が来ます。

 さらにもう少し言えば、初学者の最初の段階では、教科書のテキストの字面だけを追いかけて丸暗記をするだけでもいいのではないかと思います。もちろん、分からないことを放置せず理解できるまで立ち止まる重要性も認めますが、しかし、初学者のうちは分からなくても過剰にくよくよ悩まずに、先へ、先へと突き進んで、教科書をとりあえず通読してみるのも重要だと思います。諦めずにがんばってください。

 

 さて、この記事では、私が編入試験の受験生だった当時、実際に使用した法学の教科書および参考書を紹介しました。この記事が、とりわけ、法学部への編入試験を受験する皆様の参考となれば私にとっては幸いです。

 

 また以下でリンクを掲載しているのは、私が、編入試験について特に力を入れて詳細に書いた記事となります。

 右の記事は、主として、当時わたしが通っていた時代の編入予備校では、いかなる授業が行われていたか、を紹介することを内容としています。予備校に通うべきかを悩んでいる方や、独学で勉強しているが編入予備校に通っている他の受験生がどのような受験勉強をしている(していた)かについて気になる方にとって、参考になれば幸いです。

 以下の記事は、表題のとおり、私が編入試験で実際に提出した志望理由書です。

 大学によっては、政治学の科目を法学部に編入するために勉強する必要があります。私は、当初から、法学を勉強することを目的に大学編入を検討していたこともあり、政治学科目の対策には苦労しました。結局、ある程度割り切りながら勉強をすすめることになった過程や、その際に使用した参考書を紹介しています。

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