研究者を目指すという熱病

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ファッションに対するたのしい思い出と、偽者を掴まされた甘い経験

 高校の修学旅行で着る服を買いに行ったことがきっかけで、高2の夏に私はファッションに興味を持つようになった。友人らの部活がオフの日となれば、河原町や梅田のファッションビルに足を運んだ。

 当時は、大阪駅が改装前で、ルクアができる前だったらから、アメリカンラグシーやナノユニヴァース、ジャーナルスタンダートなどのセレショに行くには、E-MAというファッションビルまで歩かなければならなかった。今から思えば、まだメンエグ人気が高く、同級生たちがサーフ系と呼ばれるファッションに身を包んでいた中で、自分はませていたと思う。しかもつい最近まで、親が買ってきた服を平気で着ていたのだから、なぜ、唐突に、セレショやドメブラなどのファッションに手を出し始めたのかは分からない。夏が終わる頃には、同級生たちの多くとは服の趣味が合わなくなり、一人で買い物に行くことお増えた。もっとも、サーフ系の服こそ着ることはなかったものの、それほどファッションの系統にこだわりがあったわけではない。むしろ、雑誌に載っていたセレショやドメブラの実店舗を順番に訪れた、という表現が正しい。FACTOTUMのジーンズを、河原町の小さなセレクトショップの取り扱い店で購入しに行くこともあれば、39マートで、390円のブリーチ加工されたジーンズよりも色あせた真っ白のだぼだぼのジーンズを買ってみたり、阪急メンズ館に高校生には買えそうもないブランドの店舗に顔を出したものの店員に見事にあしらわれたり、あるいは未来のお客さんにと優しく接客してもらった経験など、色々な思い出がある。どれも楽しい思い出だ。そして、躊躇することなく、とにかく色々な場所に足を運び、色々な服に手を出した記憶がある。

 こうした色々なお店やファッションの系統に興味を抱いていた時期に、訪れたのが、河原町から少し外れた場所にあったアメカジのビンテージショップだった。店内には、数十本ほどのジーンズが、ダメージの具合がよくみえるように店の壁際にぶら下げられていたと記憶する。他にもTシャツや、小物類が棚に陳列され、またパーカーやスタジャン、そしてGジャンがハンガーにぶらさがっていたと記憶する。中学の頃から、バック・トゥー・ザ・フューチャーが大好きだった私は、映画をみてすぐに親に買ってもらった、主役のマーティーマクフライが履いていたのと同じ色のコンバースのオールスターを、この店で売っているビンテージジーンズと合わせれば「最高に格好良い」と思ったのは、本当の話なのだが、服の買いすぎでこの店で売ってるビンテージジーンズを買うだけのお金を出せなかったのも本当の話で、私は泣く泣く、MADE in USAだよ、と太鼓判を押されて店主に薦められた「ビンテージ」のバックル付きのものすごくかっこいいリーバイスの「ビンテージ」の、「ビンテージ」の、もちろん革製のベルトを購入した。

 店主との会話はとても楽しかったし、私は戦利品を早速、鏡の前でジーンズにベルトを通して大満足で、一度、ベルトをズボンから抜いて、バックルと革製のベルトを眺めた。何か、歴史とか、文化とか、そういうものを感じたと思う。何しろ、船だか、飛行機だか、分からないが、アメリカの大地から太平洋を越えて、日本に来たのだ。その革の奥に、歴史がないわけがない!

 私はベルトを眺めた。その後、ベルトの裏側にうっすらと、ナイフでその文字を目立たなくしたような傷の奥に、小さなCHINAという文字を発見するのだが、顔も腹も良い意味で肥えた、素敵だった(はずの)おじさんの笑顔を忘れたことはない。

 その後、その店に一度も行っていない。返品も考えたが、面倒だった。たしか1万2千円だったと思うし、高校生にはそれなりにお値段だったが、良い勉強代だと思うことにした。騙される方が悪い、という思考だったと思う。それに、悔しかったが、それでも店頭で、このバックル付きのベルトの錆びと、使い込まれたであろう革の色をみて、私はその価格を出してもいいと考えたことを、台無しにしたくなかった。

 実際、その後、リーバイスの取り扱い店で、同じバックルと同じ革のベルトをかなり安価な価格で発見するわけではあるが、偽者を掴まされた「悔しさと痩せ我慢」で1万2千円の元を取るために、そのベルトが擦り切れるまで何千回と着けた、というのは大嘘で、ファクトタムやリーバイスジーンズにそのベルトを通して「大事に」、丁寧に、レザークリームなどを用いて手入れしながら、使うことにした。

 今は、少しだけ時間が過ぎて、体型も変わり、少し太って、普段はベルトを付けないリラックスしたシルエットのチノパンを履き、それゆえに、そのベルトを付ける機会はめっきり減ってしまった。だが、大事に保管している。ファクトタムのジーンズも、足を通せばパツンパツンになるくらいに、太ももが太くなってしまった。

 とりわけ高校時代の、ファッションにまつわる経験は、すべて甘い。むしろ大人になって、敷居が高いと感じることで店内に入れなくなったお店へと果敢に冒険した。たくさんの店員さんとも出会った。店員さんの多くは、おぼこい容姿で高校生だった私を、背伸びしてるな、と内心では思っていたかもしれないが、ファッションは(村上龍的に言えば)私の精神をexpandし、行動領域をexpandしてくれたし、店員さんはその手助けをしてくれた。すべてが、たのしい思い出だ。