研究者を目指すという熱病

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予備校(法学編入コース)の二年目前期に受講した専門(法学)科目の対策授業

 私は、4年制大学の法学部への編入を目指す専門学校の2年制コースに通っていました。この記事では、専門学校の2年目の前期に、私自身が受講した法学専門科目の対策授業について紹介したいと思います。

 読んでくださっている方が、編入予備校のイメージや、私が実際に受講した授業の特徴によるメリット・デメリットを、各々、少しでも掴むことに役に立つことができれば幸いです。この記事は、2020年3月に大幅に加筆・修正を加えました

  

 2年前期の法学部に編入するための対策授業は、週に6コマないし7コマほどが配分されていたと記憶しています。そのうち(a)いわゆる「法学科目」と、(b)編入試験の英語科目対策としての「英書講読」の授業と、が、おおよそ3コマずつ均等に割り当てられていました。この記事では、前者の(a)「法学科目」について、予備校でどのような対策授業が行われたか、を紹介したいと思います。

 後者の法学科目は、①「憲法」、②「法学特殊講義」、③「刑事法入門」という科目名で開講されました。

 まず①「憲法」の授業は、15人程の受講者を対象とする講義スタイルでした。

 高橋和之立憲主義日本国憲法〔第2版〕』(有斐閣,2010年)を、講師が要約したレジュメを参考にしつつ、丁寧に読み進めました。なお、厳密に言えば、この講義は、前年度にあたる予備校1年目の後期から始められたものであったものの、その半期だけでは、本書を読み終えることができなかったので、当初の予定を延長して、2年目の前期でも読み進めることとなりました。

 以下で、メリットとデメリットを簡単に整理しておきたいと思います。

 メリット)

 この授業のメリットは、やはり、(法学)初学者にとって一人で読み進めることに非常な根気を要する法学の体系書を、講師の先生と一緒に丁寧に読み終えることができたという点にありました。

 現在、大学院において、憲法、とりわけドイツにおける基本法と関係する問題を(民事法の領域において)研究する私にとっては、この授業で培った知識が非常に役立っています。より詳細に言えば、いわゆる憲法の「私人間効力」の問題について、高橋和之先生の叙述を、そしてまた彼が提唱する「新無適用説」をこの予備校時代に丁寧に勉強したことは、ドイツにおける基本法と通常の法律(einfach Gesetz)との関係性をめぐる議論を検討するうえで、極めて有益でした。

 いわゆる受験予備校であっても、このようなスタイルの授業が可能であるということを、とりわけ記録しておきたいと思います。

 なお、私は大学院で憲法を専攻しているわけではないものの、法学部に編入した最初のゼミとして、「憲法ゼミ」を選択しました。この授業との出会いがなければ、法学研究科に進学することもなかったのではないかと思います。

 

  デメリット)

 まず、このようなスタイルの授業について考えうる最大のデメリットは、受験対策として、必ずしも、即時的な効果を持つものではないということであると思われる。

 実際、すでに述べたとおり、本書を講読することに、おおよそ1年近くかかってしまいました。

 しかし、それだけの時間的コストをかけたにもかかわらず、憲法上の問題が出題された編入試験の過去問を解き始めた際に、受講者の多くは、本書で得た知識をどのようにして(どのような書き方で)答案に落とし込めばよいか分からないままであったと記憶しています。

 私自身、憲法についての編入試験の過去問を解き始めた最初の頃は、知っている知識をとにかくすべて、まるで箇条書きするように闇雲に、書き殴っていた記憶があります。

 つまり、この授業では、答案を書く際に、法律書を読んで得た知識を使えばよいのか分からない状況のまま終わってしまいました。

 とりわけ、私たちが苦労したのは、(憲法上の権利を侵害する)国家vs(憲法上の権利の保護を求める)市民の双方の立場から、憲法上の問題を検討するよう求められるいわゆる「事例問題」を解かなければならないときでした。このときに、私は、基本書を読みながらであっても、答案の書き方がサッパリ分かりませんでした。

 ひょっとすると、現在、編入受験生である方であれば、この悩みを共感していただけるかもしれません。つまり、一生懸命、法律書を読んで一通りの知識を吸収したはずなのに、答案の書き方がわからない、あるいは上手く書けないという悩みを抱いていらっしゃる方もいるかもしれません。

   それゆえに、この授業のように、専ら知識のインプットのみを目的とするこの授業だけでは、編入受験対策という観点では、それだけで、十分に過去問に答えるだけの力をつけることは、私にはできなかったということを、正直に言わなければならないと思います。

 (もっとも、このような受講生の悩みを、実はこの授業を担当してくださった先生は、当初からすでに認識されていた。この認識のもとで、彼は、司法試験に合格した講師を採用することにより、過去問を素材に「答案の書き方」を教えてくれる授業を、「法学特殊講義」という科目名で開設してくださった。その結果、私たちの上記の悩みは解消されることとなる。)

 

 ②「法学特殊講義」という授業では、他学部から法学部に編入後、ロースクールに入学し、司法試験に合格した講師が、編入試験の過去問を具体的かつ詳細に検討することを通して、どのように答案を書けばよいか、を指導してくださる授業でした。この授業では、とりわけ編入試験においていわゆる「法学概論」の知識が問われた過去問から、憲法、民事法、刑事法といった実定法の知識が問われた過去問まで、幅広く取り扱われました。

 この先生自身が、当時、司法試験を受験し終えた直後だったということもあり、答案の書き方について非常に親切に指導していただきました。

 例えば、いわゆる法学の「説明問題」を検討する授業では、試験の少ない制限時間の中で、何を優先的に答案に書かなければいけないか、を具体的に教えてもらいました。「基礎的な知識を大事に押さえて、瑣末な知識を書くことに流れないようにする」ということを先生が何度も強調されていたことが印象的です。

 また、この授業では、憲法に関わりのある事例問題(編入試験の過去問)を解く際に、その答案の書き方を指導してくださったのが、最も有益でした。

 たとえば、事例問題において、表現の自由のような「自由権」が国家によって侵害されるケースが出題されるとします。

 このとき、まず①事例文で問題となる国家行為を特定した上で、当該国家行為によって市民などが規制されている行為(ある表現行為が禁じられているといった生の自由)を適示したうえで、この「生の自由」が、憲法上、保護される自由ないし権利としての保護範囲に含まれるか、という検討を加える。

 次に、もし、この市民の「生の自由」が、憲法上、保護される自由ないし権利として保護範囲に含まれるのであれば、②その憲法上の権利が、この事例文の中で問題となる国家行為によって、いかなる侵害を受けているか、という検討を加える。このとき、もし憲法上の権利が侵害されている場合には、憲法の条文を具体的に指摘する。

 そのうえで、③憲法上の権利の質・程度、規制手段の態様などによって審査密度(いかなる違憲審査基準によって判断すべきか)を決定し、その違憲審査基準にしたがい、憲法上の権利を侵害する問題となっている国家行為が正当化されるかを具体的に検討を加えるように、指導を受けました。

 やや横道に逸れますが、この検討のフレームワークは、いわゆるドイツ流の「三段階審査」と、「違憲審査基準論」と呼ばれるものが、ミックスされたものでした。少なくとも、編入予備校のこの講師の先生は、「ドイツ流の三段階審査」と「アメリカ流の違憲審査基準論」が、親和的な思考枠組みであると捉えていたようです。

 なお、この「三段階審査」と「違憲審査基準」についての関係性に関して、またそもそも「三段階審査」とは何ぞや、という方は、

 例えば。伊藤たける(建)先生の「三段階審査その1」以下の下記のブログや、

ameblo.jp

次の太郎先生のブログの記事が非常に参考となるのでご覧ください。

ameblo.jp

が非常に参考となるのでご覧ください。

また、伊藤たける先生が執筆された『基本憲法Ⅰ』は、憲法の新しい教科書としてオススメです。

 いずれにせよ、編入予備校において、上記の答案の書き方を指導して頂いてからは、答案の型を確立することができたことによって、事例問題を解く際に以前ほど苦労することがなくなりました。これは私見ですが、せっかくコツコツと汗を掻いて難しい法律書を読み進めたというのに、論文の書き方を知らないせいで自分の知識を答案に上手く反映できないのは、非常にもったいないことだと思います。個人的には、編入試験の過去問を具体的に検討する授業を通して、答案の書き方を適切に指導してくれる予備校を探すのが重要だと思います。

 実は、この「法学特殊講義」を担当されたB先生を編入予備校の講師を採用したのは、上で紹介した①「憲法」の授業を担当されたA先生でした。A先生は基礎法学の博士号をもつ研究者だったのですが、プロパーの研究者である自分では答案の書き方を指導することができないという認識のもとでA先生は、当時、司法試験受験生だったB先生に、「編入受験生と司法試験受験生という『同じ受験生の立場から』ぜひ答案の書き方を指導してください」とお願いされたそうです。

 それゆえに、①と②の授業は、講師陣の間で密接にコミュニケーションが取られた上で、それぞれの授業が、知識のインプットとアウトプットの能力を開発するためにフォーカスすべく、緻密に設計されたカリキュラムだったと思います。

 とりわけ、私にとって幸運だったのは、学究的な①の授業を担当された基礎法学の研究者と後述の③の授業を担当された刑法学者の先生と、そして②の授業を担当された司法試験を受験し終えたばかりの先生に、異なる視角から良質な指導を受けることができたことです。

 ③「刑事法入門」の授業は、刑法学で博士号を取得され、次年度から常勤で法学部の准教授として就職が決まっていたイケイケの先生によって開講されたいわゆる「刑法総論」を中心に教えていただけた講義でした。

 いま振り返ってみても、通常の大学の法学部における講義と変わらないレベルで、授業を行ってくださったと思います。

 また、この授業では、実体法だけでなく、当時、裁判員制度見直しのタイミングにあたる年(施行3年目の年)だったこともあり、裁判員制度についての解説を中心に、刑事手続についての概説的な講義をしてくださった授業回もありました。実際、この年度の編入試験では、裁判員制度について出題した大学もあり、受験的な観点でも、非常に有益な授業でした。

 教科書は、井田良『基礎から学ぶ刑事法〔第4版〕』(2010年、有斐閣)という有斐閣アルマシリーズの当時の最新版が指定されていた他、佐久間修ほか『刑法基本講義 総論・各論〔初版〕』(2009年、有斐閣)の当時の最新版が教科書として指定されていました。

 また、とりわけ、裁判員裁判を学習した授業回では、「論究ジュリスト」という、法学についてのその時点でホット(!?)なテーマを特集として取り上げる雑誌において、裁判員裁判を特集した号の掲載された論稿を読む機会もありました。

www.yuhikaku.co.jp

 とりわけ刑法総論を体系的に理解することができた点を挙げることができます。また、私たちは大学受験に失敗してしまった編入受験生だったわけですが、それでも、この先生は受講生の私たちのことを甘くみることなく、刑法の知識を叩き込んでくださったので、編入後の勉強でも、刑法総論についてはスムーズに学習を進めることができました。私にとって、実定法の文言の解釈論を初めて真剣に勉強した機会は、この授業だったと言っても過言ではないくらい、勉強になりました。

 もっとも、すでに紹介した①「憲法」の授業と同じように、このような体系的な法学の授業は、編入受験対策として、直接的、かつ即時的な効果を発揮するものではないのかもしれません。この授業は刑法の体系的知識をインプットすることに目的があり、編入試験の過去問などを用いたアウトプットの能力を磨く授業はありませんでした。実際、この授業に対して消極的な態度をみせる受講生もいました。

 ひょっとすると、通常の編入予備校であれば、この授業の週1コマ分の授業を、過去問の対策に費やすのかもしれませんし、刑法総論の体系がもつその複雑性を強引に単純化した、一見すれば平易な予備校テキストによって、直線的な受験対策を行うのかもしれません。

 私自身は個人的には、ある実定法、ここでは刑法総論についての体系的な知識を得たことによって、色々な詳細な説明は省略しますが結果的に、刑法の知識と比較することにより〔刑法と民法はこう違うんだと考えながら勉強することにより〕、たとえば民法の「不法行為法」の理解が深まるなど、他の科目の勉強にも役に立ちました。

 いまこのように改めて振り返ってみると、予備校の2年目の前期というのは7月の終わり頃までなので、法学部の編入試験が9月中旬から本格化することを考えると、かなりギリギリまで正確な知識のインプットに力点をおいた授業が行われていたような気がします。

 また、最難関の大学における編入試験では、会社法の知識が問われる問題が、専門科目および英語科目において出題されていたことをふまえると、私が通っていた予備校では会社法を授業内で勉強する機会が全くなかったのは、ある種の「リスク」だといえると思います。

  以上が、私が、編入予備校の2年目の前期に専門科目対策として受講した授業です。すでに示唆しているとおり、私自身は、編入予備校において受講した授業にそれなりに満足しています。

 もっとも、このブログで紹介した私自身が予備校において受講した授業を担当された先生はみな、現在、常勤の大学教員または弁護士となられており、当該予備校の講師を退職されています。それゆえ、このブログをお読みくださった読者の方には、みなさまが編入予備校への入学を検討する際の、あくまで一つの検討材料として参考してくだされば幸いです。

 また、 他の編入予備校出身の編入受験生が執筆された合格体験記を読む限り、その予備校と私が通っていた予備校とでは、その授業内容に大きな隔たりががあるのではないかと推測しています。したがって、繰り返しとなりますが、私の記事は、あくまで参考程度にとどめて、読んでくだされば幸いです。

 私が発信する情報自体もすでに古くなっており、どれだけの価値があるかは分かりませんが、少なくとも、秋から冬にかけて行われる編入試験の数ヶ月前に、ある編入予備校における受験生がどのように過ごしていたかの雰囲気を感じていただければ幸いです。

 次回のエントリーでは、編入予備校での二年目後期の授業と、二年間にわたり受講した英書購読の授業について言及したいと思います。