研究者を目指すという熱病

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蔦谷書店のどこがいけないのだろう

 ネット上で蔦谷書店が批判にさらされている光景を、これまでに何度か目撃した。TSUTAYAの経営母体であるCCC社が公立図書館を運営する際に生じた問題で批判されたり、自分の理想的な書店像を抱いている人たちに「あれは本屋じゃない、ただの雰囲気屋だ」と「本屋を潰してんのは、amazonよりもおしゃれTSUTAYA」だと、蔦谷書店の店舗の棚作りを批判されたり(引用元は敢えて紹介しません。twitterで「六本木ヒルズのおしゃれTSUTAYA」というキーワードで検索してみてください。)、先週も以下のリンク先で纏められているツイートによって批判されていた。

togetter.com

 (もっとも、先週の議論の発端となったツイートは、蔦谷書店に対する批判ではなく、利用者に向けられた批判なのですが、そのツイートにリプライの形でぶらさがっている蔦谷書店に対するツイートが私にとっては気になりました。以下で埋め込みで貼ったリンクはtogetterというまとめサイトなので、そのまとめサイトに一番上で掲載されているツイートをクリックして、twitterに飛ぶと、私が気になったツイートを閲覧することができます。このtogetterのまとめ自体は、かなり公平にさまざまな立場の意見がまとめられています。)

 

 個人的には、蔦谷書店の存在はありがたい。街の中小の書店がどんどん潰れていき、大手資本の書店の店舗も潰れていく時代に(勿論、蔦谷書店も)、独自のコンセプトと、独自の棚作りで本を売ろうとしてくれる態度をとってくれているからだ。

 確かに、ジュンク堂紀伊国屋書店のような品揃えを蔦谷書店は用意していないし、正直言って法律書なんてほとんど置いていないし、蔦谷書店では、なぜこの本がこの棚にあるんだ、と感じることももちろんあるが、専門書に親しみのある人物からみて歪な棚作りであるとしても、自分にとって見たことのない、読んだことのないジャンルの本が魅力的に映るように配置されていることも少なくないと、私は感じる。

 もしかすると、このように考えることができるのは、都市部に住んでいるからかもしれない。専門書を手にいれたいときは、ジュンク堂紀伊国屋書店に歩いて行けるし、大学生なら大学生協だって利用できる。しかし、地方に住んでいる人で、街の一番大きな実店舗の書店が蔦谷書店の地域では、確かに、例えば私の例で言えば法律書のような専門書を購入する際に、不便を感じるかもしれないし、もっと本棚を充実してくれという要望が出てくることも理解できる。

 このように蔦谷書店に対する批判や要望の中には理解できる側面も認めるが、それでもあまりに批判の声が強すぎると思う。

 結局のところ、私が蔦谷書店を擁護するのは、これまで本を普段からあまり読む機会のなかった人にreachできるように、カフェを併設したり、おしゃれな雑貨を置く努力をすることが、なぜ批判されなければならないのかについて理解できないからだ。彼らの努力の何が悪いのか、さっぱり理解できない。もう少し具体的に踏み込んでいうと、コーヒーを飲んだり、おしゃれな雑貨を購入して自宅の空間を彩るための提案をする中で、「そうした空間で本を読むのが好きな人」を作っていく努力の何が悪いのか分からないからだ。蔦谷書店の演出によって、仮にこうした人たちがある種のファッションのように本を読む人たちだとしても、そこから、本当に自分を救ってくれる本に出会ったり、行動をexpandしてくれる本に出合えれば、別にそれでいいじゃんと自分は思ってしまう。

 だいぶマイルドに書いたが、そもそも私は、上記の「そうした空間で本を読むのが好きな人」のことも、ある種のファッションの一つとして本を読むことでさえ悪いことだと思っていないし、そもそも、蔦谷書店を批判している人たちこそ、「自分が望む雰囲気の書店や本が大好きな自分に酔ってる人たち」だと私は考えている。書店の多様性を尊重するつもりはないんだな、と思ってしまう。これが批判に対する素直な感想だ。

 蔦谷書店は、2016年に書籍・雑誌の年間販売総額が、1300億円を達成している。蔦谷書店のコンセプトが支持された結果だと思う。蔦谷書店が、他の本屋を潰しているという意見に対しては、それは、どの書店に行っても代わり映えしない棚作りをしている店舗の責任でもあると私は考える。 

 とにかく、数字を出せるか、という点がすべてだと思う。2017年以降の蔦谷書店の売上げはざっとネットを確認する限り発見できなかったので、蔦谷書店を全面的に肯定する意見をこのブログでは出せないが、これから全うに出版業界とその関連業界を維持し、多様で充実した販売経路を維持する上で、数字以外の、綺麗ごとを並び立てても仕方ないと思う。

 自分が一番利用する書店は、法律書の品揃えが一番よいジュンク堂書店だが、本に興味がない人に少しでも本を届ける努力を試みている蔦谷書店のことを、とても悪くいえない。

追記)

  本文で書けなかったことを付随的に書きとどめたい。

 まず、コーヒーを飲みながら本をタダ読みできるビジネスモデルでは、出版業界の利益にらないという批判が、上記のリンク先の議論の発端となった元ツイートに対するリプライの中で提起されているが、これに対しては、もし出版社が不利益であると考えているならば、出版社が蔦谷書店に買いきりを要求すればいいだけだと私は考える。

 次に、蔦谷書店を批判する人の多くには、彼らが好む本にはそのジャンルにそれとなく偏りがあると私は理解しているのだが、そうしたジャンルが、彼らからすれば低俗だとみなされているジャンルの本によって、出版ビジネスが成り立ってきた事実をもう少し認識してほしいと考えている。敢えて抽象的に書いたが、なんとなく営業部や編集者がちゃんと編集して、ちゃんと営業して、それに応えて書店が、一冊一冊の本を、いかなるジャンルの本であろうと売ってきた努力が、蔑ろにされているのは納得できない。